窮地にある企業を救済するための最善策:ディストレス資産のM&A取引を成功させるには
2020/5/15本シリーズでは、企業再生のための最善策についてご紹介します。行き詰まった企業の売却を円滑に成功させるために取るべき手段を検討します。
イントラリンクスの新しいシリーズでは、NYC Advisors, LLCのマネージングパートナー兼CEO、ヨアブ・M・コーヘン氏に企業の業績回復について詳しくお話を伺います。これまで2回のシリーズでは、コーヘン氏が事業計画書を作成する重要性やコスト管理、様々なステークホルダーとのコミュニケーション方法について説明してきました。
企業の業績回復は常に可能というわけではないことを覚えておくことが重要です。そして時には債権者に支払うための事業閉鎖もしくは資産売却といった方法の選択が正しい場合もあります。本稿ではそうした事例についてお話しするとともに、業績の悪化した企業の売却を円滑に成功させるために同氏が行った方法をご紹介します。
数年前のことですが、ある動産担保の融資機関から緊急の電話がかかってきました。5000万米ドルの消費材メーカーに対するローン担保評価を至急行ってほしいとのことでした。
その翌日、私はその企業のCEOに面会し、同社が事業売却交渉の最終局面にありながら、土壇場で買い手が手を引いたことを伝えられました。売却に至るまでの最後の数か月間、同社は最大顧客からの新規注文が急減する厳しい状況にありました。その顧客からは支払い期間を延長するよう要求され、同社がそれに同意したため、キャッシュフローに大きな影響を及ぼし、従業員やサプライヤーへの支払いをタイムリーに行うことが出来なくなっていました。
私が売掛金と在庫を見直した結果、担保がほぼ100万米ドル不足していることが分かりました。さらに融資機関が同社への資金提供を中止したため、同社は操業を1週間続けるのに十分なキャッシュすらありませんでした。
手っ取り早く売却を行うための唯一の手段は、同社の資産である現在および将来の注文書を、同業社の戦略的バイヤーに売ることでした。戦略的バイヤーへの売却を選んだ理由は2つありました。1つ目は、バイヤーがサプライヤーからそのまま完成品を購入することができるため、顧客は確実に予定通り注文品を受け取ることができること。2つ目は、顧客基盤を維持しながら、今後もすべての注文を配送できることです。
私はまず、当初の売買交渉から撤退したバイヤーに面会しました。彼らは同社を買い取る代わりにその資産を当初の買取予定価格をはるかに下回る金額で売却することを申し出ていました。そこで私たちは、まず担保を持つ貸付機関が資産を所有することとし、そのうえで資産をそのバイヤーに売却するという取引を交渉しました。こうすることで、売り手と買い手の両方が不正譲渡に関わることを防ぐことができます。話し合いは1週間以内で最終的な合意に達し、クロージングの日程が設定されました。しかし、バイヤーは最後になって怖じ気づき、クロージングの日には現れませんでした。
クロージングがキャンセルとなった同じ日の夕方、同社のCEOと私は別の戦略的バイヤーに面会しました。短い話し合いの後私たちは合意に達し、失った取引よりも良い取引、つまり高い金額での買取と、不測事態を招かない方法を得ることができたのです。取引は2営業日以内に完了し、担保を持つ融資機関に対してほぼすべてのローンを返済することができました。
それでは、この売却が成功し、融資機関のローンを回復することができた理由は何だったのでしょうか?
- 素早い状況分析、行動計画の作成、迅速な実行
- 強硬なプランを用いてすべての売掛金の回収に当たる
- 買い手と担保を持った貸し手の両方にとって意味のある取引のメリットを話し合うため、戦略的バイヤー数社と面会する
- 工場や顧客とコミュニケーションをとり、両者と緊密な連絡を維持する
- セールスチームと連絡を取ることで(これはクライアントへの情報提供に役立つ)、最終的なバイヤーが受注品を届けるのをサポートする(売り手の営業担当者の多くはバイヤー企業に雇用された)
ディストレス資産の売却を円滑に進めるには、主な問題を素早く理解し、経営陣と債権者とともに行動計画を迅速に作成する必要があります。計画実施をリードしつつ、迅速な意思決定を行い、必要に応じて柔軟に方針を変更する必要があります。
ヨアブ・M・ コーヘン
ヨアブ・M・コーヘンはNYC Advisors, LLCのマネージングパートナー。同社は企業再編および業績回復プランのサポートにおいて、臨時および非常勤CFOを駐在させるほか、その他の収益回復に向けたアドバイスを行っている。これまで同氏のクライアントが破産申請したケースはなく、すべてのケースにおいて業績回復あるいは破産を回避するための事業戦略が奏功している。